20190818

 

やっと何かかけるような感じになってきた気がする。自分の現状についてこんなにも、どう考えたらいいかよくわからないという状態になったことがないので本当にずっと困惑していた。生活に対する切実さをどんな感じで発揮していくのがちょうどいいのかまったくわからずに困惑していた。実家の冷蔵庫も雑然としてきた。今まで一度も手をつけていなかったテーマが多すぎて、ヒントが少なすぎて、回答じみたものも見た感じ世の中には流通していないので本当に困っていた。多分漠然とした考えだけで答え出そうとしてるのが問題なんだけど、その考えのループにはまっていてただ落ちていた。今もまったく答えは出てないけど、何か書けるくらいには問題が安定してきて輪郭が見えてきたのでいい感じになってきた。生き急ぎすぎていたというほかないと思う。別の見方が必要。

 

『クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime』国立新美術館

我々は毎秒死んでいるのだ・ということをきっと表現したいはずなんだけど、それを切実に受け取る繊細さが現状の私に欠けており、ファニーめのデザインの悪魔を見て少し笑うくらいのことしかできなかった。もう多分誰も名前を覚えていない少年や少女の肖像が祀られているところを見ても、感慨がなかった。死に対する意識が鈍くなりすぎていると思う。それが何よりもなんか怖かった。

 

『BRING THE SOUL: THE MOVIE』(2019)パク・ジュンス

この映画は世界同日公開で、公開日から世界中のARMY(BTSのファンの通称)たちが映画館とチケットの写真をtwitterにUPしているのを見ていた。他の国の映画館はこんな感じになってるんだーと思った。それが見れただけでもこの映画が公開された意味があったなと思った。

アメリカ・韓国とヨーロッパ各国でのコンサートのシーンとバックステージの様子を追ったBTSのドキュメンタリー映像。コンサートはいろんな公演から抜粋された5曲くらい。BGMからコンサート本編に繋ぐやり方とかだいぶスマートでシンプルにカッコよかった。5秒に一回くらい毎回カットが割られていたのでかなり酔った。眼球が全然追いついていなかった。それに加えてパリのアパートの最上階の一室でコース料理をふるまわれながら、ワインを飲みながらささやかなコンサートの打ち上げをするメンバーのシーンが所々に挟まる。『THE Beatles: Eight Days A Week』を本人たちがバリバリ現役の時に撮ろうみたいな気持ち感じた。本編のラストシーンが、アパートのベランダから町を見下ろす7人を映す引きのショットだったことも多分関係あると思った。

オープニングから冒頭で車を降りてくるメンバーを撮るカメラがあまりにも最高なので、すぐに最高の気分になった。車と青空と手持ちのカメラと横顔が最高だった。序盤からJIN「お腹が空いた アペタイザーはいつ来ますか?」J-HOPE「待てないんですか?」JIN「無理だ何か食べてこればよかった」というさりげない会話が切り取られる。一人の素朴な青年としての姿。アパートのベランダに出たJUNG KOOKが「冬の匂いがする。冬の匂いと夏の匂いがありますよね?いい匂いだな」と言うシーンに感動。BTSはいつもメンバー全員がこういう予想もしないような発言をしてくれるのでその度に私は画面を見つめながら目を見開いて鼓動を少し早めている。こういうシーンをカットしないで残そうという執念を常々感じるプロデュースの姿勢になによりも共感してるし感謝してる。bighit entertainment 本当にありがとう涙。パリジャンみたいな服装のVが一番最後に何故か匍匐前進で登場して、「主役は最後に登場するものだ」と誰かが言った時点でもう胸がいっぱいになった。

全体を通してコンサート前の楽屋(食事)→コンサート→打ち上げ(食事)→飛行機での移動→また楽屋→… という食事・コンサート・移動の様子が主に描かれていて、 この人たちはこんなことをずっと繰り返しているのか。。となんとなくシュンとした気持ちになってくる。ツアー道中の楽しそうな様子やつらそうな様子が満遍なく映されていて、どうやらこれは私たちの日常と同じような感じだと思わせる。「これが終わったら飲みましょう」とコンサート前にソファに横たわったJUNG KOOKが言っているシーンや、ドイツの公演前にケータリングを食べながらRM「ジムに行ったらテレビでずっと僕たちの映像が流れてた」に対してJIN「有名になったと感じるエピソードは?と聞かれた時にそれを答えてよ」と返すシーンなど、素朴な様子をとらえることに余念がない。多分ずっとこんな感じなんだろうなと思わせるところがBTSの一番すごいところだと思う。スターなのに驚くほど素朴で、その素朴さがフィクションに見える瞬間が1秒もない。

素朴さが一番重要だと思うわけではないけど、でもいつもそれが驚きだしパワーをくれる原因になっている。この感じは、教育的かつ適量のユーモアを備えたマンガとか読んでるときの気持ちに似ていると思う。スヌーピーとか?他になんか思いつかないけど…愛と少しの皮肉のバランスが居心地よくて安らぐ。迷言めいた名言が出てきたり、人生の重要なことがなにか書いてあるような気がする時もある。ああ、名作だな…と思いながら次々とページをめくる時に似た気持ちいいドライブ感がいつもある。このドライブ感が、ファンが作った2秒のGIFにもコンサートの構成にもそれぞれに見合ったサイズで伝わってくるのがBTSのあらゆるクリエイティブの凄いところだと思う。この浮遊感と幸福感は、今まで感じたことのない種類の質感をしている。だから毎回新鮮に驚いてしまう。

RMが1人でコンサート会場からホテルに戻る車中で、兵役中だという自身の友達のエピソードを援用しながら"待つ人・待たれる人"について語るシーンでは、「僕たちは、コンサートを観に来てくれた人に"今日のために頑張ってきてくれたんだ"と思ってもらう義務があります」という発言に驚く。「コンサートを観にきてくれた人に楽しんで欲しくて頑張っています」はよくアイドルが言ってそうなことだけど、その上から俯瞰してメタな視点で自分の仕事を眺めている。この発言をスクリーンに映そうという製作側の気合も感じられて嬉しかった。

JUNG KOOKが本番前に踵を怪我して、「コンサートに出るのか?出ないのか?」を話し合う緊張感のある場面で、横たわるJUNG KOOKとそれを見る他のメンバーの切り返しがかなり最高だった。見ているメンバー達それぞれの神妙な面持ちと暗いバックヤードの雰囲気が美しかった。次の公演で足を見てもらうとき、医者がJUNG KOOKに「名前はなんですか?」と聞くシーンがわざわざ残されているのも意図的だったと思う。「ジョングクです」と笑いながら答える様子がちょっと嬉しそうだったところが最高だった。SUGAがホテルの一室でトラック作りをしている時に飲んでいるボルビックの量が1/6くらいだったこともこのシーンと同じような嬉しさがあった。

Vの声が風邪で出なくなるシーンの編集もかなりカッコよくて、リハーサルからマスクをしてボーッとしている様子から、咳き込んでいるところをスタッフに心配されながらただ頷いているだけのところとか、楽屋で歌の練習をしている時に高音が出ないところが淡々と追われている。JIMINが同じ場所で化粧を直されながらどこか別の場所を見つめていて、Vの方を一瞥してから「Vさんは声が出ませんね」と言うシーンが良すぎた。その後流れた『The Truth Untold』のコンサート映像で、Vが音の高いサビを歌うのを諦めて、ファンがそのパートを歌う様子が、顔のアップなどVに焦点を当てたりせずあくまでコンサートの1パートとして撮影されていたのが良かった。感情的にならずただヒンヤリとして美しかった。

ほかにもJ-HOPEが街を散歩しながら「important businessはどこでも通じる言葉だ」「外を歩くと気持ちが良いな RMとVがよく外にでたがる理由がわかる こうやってメンバーの気持ちを知るんだ」と言うところや、JINが鳥や子供のいる午後の公演を散歩したりアルパカを見ながら「あいつらは動きたくないんだ 僕と同じだな」と言うところ、RMがただ暗いパリの夜空を見て「空が綺麗だ」というところなども感動した。7人の感受性はいつも豊かで、愛に満ちている。その様子を見るたびにいつも、暑い日にコップに注がれた冷たい水を見るときのような気持ちになる。7人が体現する愛のようすにいつも驚いて、信じがたい気持ちになる。『Answer: Love Myself』のコンサート映像を見るときの幸福感は日頃のこういう感動を凝縮したような感じ。

最後のモノローグでRMは、「僕たちにできることは実は全然ない。ただステージに上がって、"ああ今日もこの体を自分のために使ったな"と思って帰ることしかできない」みたいなことを言う。それで"彼らが彼らをただ生きることしかできないように、これを見ているあなたたちもそうでしょう"というのを考えうる限り前向きなメッセージとして伝えてきて、映画が終わる。

全編を通して見て一番楽しい場面は打ち上げでJUNG KOOKやVが他のメンバーのモノマネを披露してみんながケラケラ笑っているところや、テキーラみたいなのを飲んだ後JIMINが Vを見て「大変だ Vさんが心臓麻痺になったみたいです」と言ってVが演技をしながらソファに倒れこむところで、そのことをエンドロールで思い出して泣きそうになった。と言うか少し泣いた。コンサートツアーに挑む7人の様子が、食事・仕事・移動して、合間の散歩や自分の部屋車の中で何かについて考えて、友達とくだらない話でみんな笑顔になって…というどこにでもある生活の一部みたいに編集されていた。ドキュメンタリー映画すらもアイドル自体をコンテンツとして消費させるのではなく『Love Yourself』のメッセージを伝えるために製作しているところが本当にすごいと思う。

公園の鳥や水面、パリの街とか、夜暗い中を車がコンサート会場を去るバックライトとか、綺麗なショットがたくさんあるのも最高。

あと最後にオフショットが延々と流れるところも最高 映画のためにメンバーがなんかやったとこは全部カットしました^ - ^みたいな感じで見せてくれる。「ファンはこういうとこが見たいですよね???」って言ってるところがたくさん出てくる